ティアは長い車寄せを車で走り、車や車の部品がいっぱいの作業場に乗り入れた。
カオスとなっているその隅に、小さい家がある。
ティアは、車から降りる前に目を細めて家を見る。
ティア
ティア
何か見覚えある?
キーラン
キーラン
ぜんぶ見覚えあるよ、バカハムスターちゃん。
キーラン
キーラン
ハーリーおじいちゃんの家だ。何回も来たことがある。
ティア
ティア
私が聞きたかったのは、何か重要なことを思い出したかどうか。
キーラン
キーラン
お前はここに来ちゃいけないはずだってこと、思い出した。
キーラン
キーラン
ただメールするとか、電話だけでもよかったのに。
ティア
ティア
そうすると、奥さんは嘘がつきやすいでしょう。
ティア
ティア
奥さんが私と会話するところが見たいの。
キーラン
キーラン
僕に起きたことと奥さんは、本当に関係ないと思うよ。
ティア
ティア
だったら私がここに来ても構わないでしょ。
ティア
ティア
奥さんが、ハーリーおじいちゃんは出かけてて、奥さんはひとりで家にいるって言ってた。
彼女は家に向かう。
ノックする前に、誰かが玄関のドアを開ける。白髪を長くのばし、カラフルで、ゆったりとした服を着た女性だった。
オーロラ
オーロラ
ティア!やっと会えて嬉しいわ。
オーロラ
オーロラ
ひどい状態でごめんなさいね。
オーロラ
オーロラ
キーランに、あなたも連れてきてって頼んだんだけど。実現しなかったわ。
ティア
ティア
そうですね、キーランから聞いています。
ティア
ティア
両親から、ハーリーおじいちゃんには会わないよう言われているんです。
ティア
ティア
キーランは私が告げ口すると思ってるみたい。
オーロラ
オーロラ
まだ現在形で話すのね。話し方がまるで―
オーロラ
オーロラ
私が知っておくべきことがあるのかしら?
ティア
ティア
例えば?
オーロラに会った今では、ティアには彼女が暴力的なことに関っているとは思えない。
彼女からは親切さと共感と、それ以上の何かも感じられた。
オーロラ
オーロラ
キーランは私のことを何か言ってたかしら?
オーロラ
オーロラ
話したかしら、私が敏感だって?
オーロラ
オーロラ
霊界に興味があることとか?
ティア
ティア
霊界?
オーロラ
オーロラ
そう、死後の世界。それと向こう側からメッセージを送る魂。
オーロラ
オーロラ
夢に出てくるとか、正体がわからない香りや温かさとか、奇妙な偶然とか―
ティア
ティア
取り付かれた携帯電話とか?
オーロラ
オーロラ
なに?そのテクニックは知らないわ。
彼女は身を乗り出し、明らかに興奮している。
オーロラ
オーロラ
でもすごいわ、すごい可能性ね!
オーロラ
オーロラ
雑音とか、切れちゃう電話だけじゃなくて…
ティア
ティア
メッセージがたくさん。
オーロラ
オーロラ
メッセージ?実際に言葉で?
ティア
ティア
そうなんです。詐欺かと思いますよね。
オーロラ
オーロラ
私たち、つまりあなたのおじいさんと私は、キーランからいくつかメッセージをもらったの。彼の番号から。
オーロラは注意深く、穏やかに話そうとしている。
オーロラ
オーロラ
いなくなった直後に。
オーロラ
オーロラ
それでおじいさんはキーランは元気だと思ったの。
オーロラ
オーロラ
でも、誰かが代わりにメッセージを送ることも簡単でしょう?
ティア
ティア
これは兄の番号から送信されたんじゃないんです。
ティア
ティア
番号を使って送信されたように見えないんです。ただ表示されたんです。
ティア
ティア
携帯のバッテリーが切れてても。
ティア
ティア
それに、彼は色々知っていました。
ティア
ティア
双子の秘密を。
ティア
ティア
馬鹿らし過ぎて誰にも言わないような内容の。
ティア
ティア
兄だと思います。兄は時々嫌な奴だったけど、それでも兄ですから。
ティア
ティア
双子の。
ティア
ティア
自分が死んだなんていう騙し方はしないはず。
オーロラ
オーロラ
そうね、私もそう思うわ。キーランはそういうことはしない。それに、彼が死んだと感じるの。
オーロラ
オーロラ
私には、あなたたちのようなつながりはないけれど、特別な能力があるの。
オーロラ
オーロラ
それに、あの夜、彼がここから帰った時に、心配になったの。
オーロラ
オーロラ
それで瞑想して、感じたの―
オーロラ
オーロラ
残念だけど、ティア、だけど彼の恐怖を感じたの。痛みも。
オーロラ
オーロラ
それから、彼が向こうへ行ったと感じたわ。
ティア
ティア
兄はここから消えたんですか?誰と?
くたびれた感じのピックアップトラックがやって来て、ふたりはそちらに気を取られる。
トラックと同じくらいくたびれた男が運転している。
トラックから降りてきた彼はデニムとレザーを身に着けていて、タトゥーがあった。
彼の髪は白く、乱れていた。
ティア
ティア
あれは―
オーロラ
オーロラ
ザカリー!こっちに来て。お孫さんがいらしてるわ。
祖父のハーリーが彼女を見つめて、それから声をあげる。駆け寄ってきて、ティアを強く抱きしめる。
彼女は両腕を脇に垂らしたまま、立っている。そして、彼が抱きしめるのを止めると、後に後ずさる。
ティア
ティア
こんにちは、ハーリーおじいちゃん。多分、初めまして。
ティア
ティア
でも、ここに遊びに来たわけじゃないの。
祖父のハーリーは顔をしかめ、後に下がる。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
どういうことだ?
ティア
ティア
キーランは何に巻き込まれたの?何が起きたの?
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
何だと?何も問題は起きていない。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
なんだよ、オーロラ、この子にお前の物語を話したのか?
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
あの子は大丈夫だ!
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
ちょっとした休暇みたいなもんだ。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
生活のストレスから解放されるために。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
一休みしてるんだ。
ティア
ティア
いえ、それは違います。兄は―亡くなりました。
祖父のハーリーは頭を振りながら、ティアとオーロラを無視して家の中に入っていく。
彼女たちはリビングルームに行く彼を追う。リビングループには風変りで、古びた家具が並んでいた。
オーロラ
オーロラ
ティア、気を付けてね。
オーロラ
オーロラ
向こうへ渡るべきなのに渡れない魂はどうなると思う?変わってしまうの。
オーロラ
オーロラ
今のところキーランは、あなたのお兄さんのままだけど、でもいつまで続くかわからない。
オーロラ
オーロラ
怒り出すかもしれないし、あなたがずっと密に接しているなら―
オーロラ
オーロラ
あなたにとっては危険なことになるかも。
ティア
ティア
どんな危険?
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
くだらない!
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
あの子は大丈夫だ。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
カリフォルニアの話をしていた。なにもかもから逃げたいって。
ティア
ティア
兄の車が見つかったんです!血だらけの。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
どうやって?警察か?
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
奴らは人を怖がらせることばかり言っている。人をおとなしくさせるためだ!
ティア
ティア
兄からメッセージがあったんです!彼いわく、死んだって。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
いいや、死んだ人間はメッセージなど送れないだろう、ティア。
ティアの携帯の音が鳴り、彼女は携帯に目にやる。それからハーリーに向き直る。
彼女は今回は静かに、祖父を納得させようとしている。
ティア
ティア
今、兄からメッセージがありました。
オーロラはしっかりと 携帯を見る。
ハーリーは信じない様子で顔をしかめる。
ティア
ティア
兄は、今色々思い出してると書いてます。
ティア
ティア
男たちに切りつけられたことを思い出しています。
ティア
ティア
ひどく苦しめられて。
ティア
ティア
そして、彼らはやり過ぎて…
ティア
ティア
彼らは当時のシカゴみたいだって言った。
ティア
ティア
兄には意味がわからないけど、おじいちゃんならわかるはずだって。
ティア
ティア
おじいちゃんにはわかるんですよね?顔が白くなってますよ。
ハーリーはショックを受けた様子で後ずさりする。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
いや、そんなはずはない。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
奴らは、奴らは俺に仕事をさせようとした。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
宝石店の計画をたてろって。計画だけだ、オーロラ!
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
一緒にやったわけじゃない、できないって言ったんだ。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
俺は人生をやり直したから、関わることはできないと言った。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
だけど奴らには断れない。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
キーランはよく遊びに来てた。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
奴らはただ―奴らは銃を見せて、キーランを連れていった。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
俺が仕事を済ませたら解放すると言ってた。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
だから俺はあの仕事をしたんだ!
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
奴らはキーランを解放した。キーランは怒ってた。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
パニックになってた。少しの間どこかに行くと言ってた。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
でも、奴らはキーランを解放したんだ!
ティア
ティア
兄はメッセージにそう書いたんですか?
ハーリーは、孫がまだ生きている証拠がないことに気づいて、気を落とす。
ティア
ティア
誰かが、兄の電話を使ってメッセージを送ったのかも知れません。
ティア
ティア
でもキーランじゃない。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
でも俺は奴らの言うとおりにしたんだ。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
その後もやってきて、もっと助けろと言ってきてる。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
ずっと協力してるんだ。
オーロラ
オーロラ
あの人たちは異常よ、ザカリー。わかってるでしょう。
オーロラ
オーロラ
だから、最初から彼らの仕事を受けるべきじゃなかったのよ。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
そんな。
彼は自分の手の平に顔を埋める。
ハーリーおじいちゃん
ハーリーおじいちゃん
どうしよう。
皆しばらく沈黙する。
ティア
ティア
ねぇ、ごめんなさい。辛いことでしょう。
ティア
ティア
でも兄は、自分自身でいるのが大変だと書いてます。
ティア
ティア
さっき、怒って私の携帯を壊したんです。彼の魂が携帯を壊したんです!
ティア
ティア
死体を見つけないと、前に進めないと書いてます。
ティア
ティア
でも私は、彼が言いたいのは、男たちを見つける必要がある、ってことだと思います。
ティア
ティア
報いを求めてるます。警察に電話して伝え―
ちょうどその時、ティアの電話が鳴る。
彼女はすぐには目をやらず、すると全てのサウンドが鳴り出す。
曲、着信音、携帯で使用している通知音のすべてが。
電話が叫んでいるように聞こえる。
ティアが画面を見る。
キーラン
キーラン
逃げて!逃げて!
キーラン
キーラン
あいつらだ!見たことがある!
キーラン
キーラン
あいつらが来る!車寄せにいる。
キーラン
キーラン
逃げて!逃げて!奴らが来てる、ここにいる。
キーラン
キーラン
走れ!
ティア
ティア